FabLab Japan Networkとは何か

田中浩也

2017年3月18日から20日まで、北九州イノベーションギャラリー(KIGS)で、ファブ施設の在り方について施設運営者や関係者が講演・議論するイベント「MAKERS & FABBERS 2017 in KITAKYUSHU」が開催されました。九州地区のファブラボを中心に多数のメンバーが参加し、そのレポートはFabcrossに公開されています。

その会の冒頭で私は「ファブ施設とメイカースぺースのこれまでとこれから」と題した基調講演を務めたのですが(その際の発表資料は、一部アレンジしたのちに、こちらに公開してあります。また講演映像はこちらから見ることができます)、講演が終わったあとの昼食時間や夜の懇親会などで、何人かの人から「FabLab Japan Networkってどんな組織なのですか」という質問を受けました。そのあと、また別の場所でも、同様の質問を受ける出来事が何度かありました。そうした経験を通じて、昨今のファブ施設の爆発的増加という状況のなかで、改めてFabLab Japan Network(以下FJN)という組織がどういうものなのかを整理し、説明する必要が生まれているのだと気づきを得ました。今回は、そうした状況を受けて、よくある質問や疑問を中心に、FJNが一体どんな組織なのかをもう一度文章化してみたいと思います。

1. 「ファブラボ」の認定団体ではない

まず、よく誤解されるのですが、FJNは「ファブラボ」の認定団体ではありません。現在世界各地には1000か所以上のファブラボがありますが、世界のどのファブラボも、どこかの公認機関が認定した暁に晴れてファブラボになったものではありません。「ファブラボ」は、社会的合意としての「名乗る条件」さえ満たせば、誰でも名乗ることのできる柔軟な仕組みでこれまでも増加してきましたし、これからもそれは変わらないでしょう。

ただ、仮に新しくファブ施設をつくることになったとして、そのメイン名称あるいはサブ名称として「ファブラボ●●」という呼称を使おうと意思決定する場合には、「すでに存在する他のファブラボと連携したい、世界のファブラボネットワークに参加したい」という理由が含まれている場合が少なくありません。その目的を叶えるためには、ファブラボどうしのつながりを促進する下支えとなる「プラットフォーム」があったほうが便利です(そうでなければ、すべて自助努力で他のファブラボとの交流を進めることになります。それはそれで楽しいことですし、いずれにせよある程度は必要なことなのですが)。

そこで国際組織として生まれたのがFab Foundationという組織です。新しくできたファブラボは、fablabs.ioというリストに登録を申請することができる仕組みになっています (この登録の際には、他のファブラボの推薦が必要になります)。このfablabs.ioは世界のファブラボ一覧(名簿のようなもの)ですから、ここに掲載されると、世界の他のファブラボからも「見える化」がされます。その結果、海外からの来客が増えると一般には言われています。急に、「フランスでファブラボをやっている者です。いま日本に観光に来ているのですが、あなたのファブラボにいっていいですか」という連絡が来たりします。逆に、海外に出張や観光で海外にいくときに、このサイトでチェックし、現地のファブラボに訪れるという新たな楽しみを得ている日本人もたくさんいます。

なお、Fab Foundationは毎年1回世界のどこかで「世界ファブラボ会議」を開催しています(2017年の今年は第13回となり、チリのサンティアゴで開催です。ちなみ日本は2013年に第9回を横浜で開催しました)。やはり同じ場所で顔を突き合わせて話し合うことで人と人とのつながりは濃くなるものですから、そのアジア版として、「アジアファブラボ会議」も2014年から毎年開催されています。

2. ファブラボ同士の連携/交流を促進するための日本語コミュニティとして

FJNは、国際組織Fab Foundationが果たしているに近い役割を、「日本語環境」という共通の言語のもとでも担おうとしています。ただ、Fab Foundationと違って、法人格をもたない有志団体で、ボランティアで運営されており、事務所などは特にありません。

fablabs.ioと同じように、FJNも、日本語の通じるファブラボの登録制リストをつくっています。そのリストに登録するためには「他のひとつのファブラボの推薦が必要」というルールにしています(2017年6月にルール改正を行い、推薦はひとつのファブラボとなりました)。ただ先に述べたように、FJNは「ファブラボ」の認定団体ではありませんから、FJNに登録されているファブラボがすべてというわけではありません。

そのほかに、FJNではFacebookのグループを運営しており、ファブラボに関する日本語での情報交換をはかっています。このFacebookグループは、①ファブラボの運営者 ②新たにファブラボを立ち上げようとしている人 ③ファブラボの活動に共感し応援したい個人(たとえば、はじめはファブラボのユーザーとしての立場だったものが、徐々に運営側としてもコミットしていただける人など)が参加資格となっており、Facebookグループへの参加申請は、各ファブラボの主運営者(代表者)を通じて行う仕組みとなっています。

Facebookグループで話される内容は、近況の紹介、イベントの報告から、ファブラボで起こった問題の相談、連携のもちかけなどさまざまです。

中には、離れたラボどうしであっても特定のトピックで勉強会を開催したり、遠隔でもビデオ会議システムで結び合って同時開催ワークショップを開いている例(メタルファブなど)などもあります。昨今の状況を考えれば、ファブラボ世田谷が中心になって開始された、ファブラボでの安全をどう担保するかを考える「Fab Safe Summit」は、ひとつのファブラボだけでは解決できない、たくさんのラボが連携して話し合う必要のある、これから重要なトピックといえるでしょう。

とはいえ、こうした「ネット上」でのコミュニケーションが活性化するためには、まず「リアルで直に会ったことがある」ことがどうしても必要になります。リアルで会ったことがない人どうしがネット上でいきなり知り合っても、お互い空気を読みあってしまい、あまり思い切った発言が出ない・・・・というのは現代社会では良くあることではないでしょうか。

FJNでは、これまで不定期に「日本ファブラボ会議」などを開催し、親睦を深めてきました。最近では、地域ごとに、そのエリアのメイカースペースやファブ施設が広く連携して会を開催することも多くなっており、「グローバルなネットワーク」と「ローカルなコミュニティ」の両方に足をかける存在であるファブラボの役割が改めて問われている状況でもあります。

3. 「ネットワーク」は「人のつながり」以上に何を生み出せるか?

「ファブラボは単独のラボではなく、世界的なネットワークである」というのは当初からよく言われてきたコンセプトでした。ファブラボはまずローカル(地域)のラボとしてしっかりとその場所に根を張る必要があります。その一方で、単独ではなく世界で1000を超える大きなネットワークの一部として、全体でどのような価値を出せるのかを常に問われている存在でもあります。

日本でファブラボがはじまってからすでに6年が過ぎ、「ネットワーク」というぼんやりした(魅力的ではあるけれども、実際には良く分からない)言葉の内実が「人々の交流、情報交換」以上に具体的に何かあるのか? 暫定的であっても答えを出さなければいけない時期に来ているのかもしれません。

ファブラボが「ネットワークとして」具体的に実施しているプロジェクトは今のところ2つです。

ひとつは「Fab Academy」です。

MITのニール・ガーシェンフェルドの講義を毎週1回中継して、電子回路から家具製作まで、あらゆるジャンルを網羅的・集中的に学ぶこの講座は、もともと「ファブラボ運営者を育成するため」に始まりました。ファブラボは、機材と空間を用意して立ち上げたとしても、その中核を担うマスターの存在がなければうまく運営できないことは初期から知られていました。

渡辺智暁氏(慶応義塾大学政策・メディア研究科)が2016年に論文発表した、ファブラボのビジネスモデル4類型 (機材貸し、講習会、受託開発、新製品R&D)のうち、前者2つではなく後者2つを実践するためには、開発のスキルが必要になります。しかも、時代はIoTやハードウェアスタートタップが注目されており、そこでのモノづくりスキルは、ソフトウェア、ハードウェア、エレクトロニクス、プロダクトデザイン、センシング、ウェブシステム、と非常に多岐に渡る領域横断的なものになっているのです(なお、ファブラボのビジネスモデル4類型 (機材貸し、講習会、受託開発、新製品R&D)は、私のスライドにて図化してありますので興味があれば見てみてください)。

さらに2017年からは、そこに「アート」の要素も加味しようと、世界的なアーティストであるオラファー・エリアソンの特別講義が追加され、Fab Academyは今も進化を続けています。インドでは、Fab Academyを受ければ、ひとつ新しい「ハードウェアスタートアップが誕生する」と言われるほど、その授業内容が注目されており、政府からも支援されています。

Fab Academyは、Fab Academyを修了した運営者のいるファブラボで受講可能で、日本国内では、FJNからスピンアウトした Fab Academy Japanが運営組織になっています。

もうひとつは「リモート・ファブリケーション」です。
ファブラボがボトムラインとしての「標準機器」を定義してきた理由は、あるファブラボでつくられたものが、他のファブラボでもデータから再現可能であることを担保するためでした。「料理道具」がおおよそ標準化されているからこそ、Cookpadのレシピは、だいたいのキッチンで再現可能で、共有知識として価値が生まれます。さらに、同じ機器があるなら、互いに離れた場所のままでも、データをやりとりしながら遠隔でゼロから共同開発を行うことも可能です。いわゆる「リモート・コラボレーション」のFAB版です。

しかし実際のところどうなのか。やってみたらどういう難しさがあるのか。どういうツールやルールを決めれば、離れた場所どうしでもうまくプロジェクトが進められるのか、そのことはあまり実験されないままで来ました。

日本で、総務省により「ファブ社会における新しいものづくりの情報流通等に関する調査研究」が行われたのは2015年から2016年にかけてのことです。離れていても遠隔で連携して開発する必然性のあるテーマ=共通課題として、「障碍者支援」と「農業」があげられ、それぞれファブラボ北加賀屋と、ファブラボ浜松が実験に参加しました。遠隔で数か月間に渡ってリモート・ファブリケーションをする実験が行われ、その長所、短所、気を付けなければいけないことなどがまとめられました。その調査研究報告書はこちらにアップされています。

こうしたノウハウも参考にしつつ、これからますます、ファブラボ間のリモートファブリケーションが生まれることが期待されます。

以上の2つが、ファブラボが「ネットワーク」として、「人の交流」以外に、実験しながら価値を試して/生み出している具体的なプロジェクトだといえるでしょうか。

4. これからのFJN~「ネットワーク」で本当に可能なことは何か?

「ファブラボは単独のラボではなく、世界的なネットワークである」ことの具体的実装例として、「Fab Academy」と「リモート・ファブリケーション」の2つをあげてみました。しかし、「ネットワークとは何か?」という問いがこれだけで終わるわけではありません。この2つだけが答えの全てというわけでは決してないのです。

コンピュータがつながって「インターネット」ができたことで、その上に、メール、Web、SNS、分散処理などたくさんのアプリケーションが立ち上がりました。そのアナロジーで考えれば、「ファブラボ」がつながって世界的なネットワークが構築されたことで、その上に、もっともっとたくさんのアプリケーションが立ち上がってきてもよいはずです。

しかし、それは、これまでの世の中にあったものの焼き直しで発想しているだけでは限界があるのかもしれません。たとえば、「手紙」のデジタル化により「電子メール」は生まれたわけですが、他方、Googleのような「検索」には過去の参照源はありませんでした。インターネット以前には存在しない、つまり「はじめて」世の中に登場したものなのです。

過去にあったものの焼き直しでなく、ファブラボが世界で1000を超える工房のネットワークとなったから今だからこそ、これからできることは、いったい何なのか。

その可能性として、今、わたし個人は、ブロックチェーン技術がファブラボネットワークと一体化されたときにどういう未来を描けるかを考えています。ブロックチェーン技術もファブラボも基本的に「分散処理」のマインドを継承したものですから、相性は良いはずです。

もちろん、ブロックチェーン技術は私が個人的に考えている一例に過ぎません。他にもたくさんの可能性が、まだ気付かれないまま眠っているのでしょう。結局、これからのFJNは、ファブラボ間の緩やかな情報交換を引き続き促進しながらも、「ファブラボがネットワークとして何ができるのか? まだ見ぬその可能性を問い続けて、試し続けていく人たちの場」となっていく予感があります。

長くなりましたが、FJNにどうすれば参加できるのか、はこちらに改めてまとめました(2017年6月改定)。この文章で、少しでも「FabLab Japan Networkとは何か」が伝わるとよいなと思います。