ファブラボのつくり方:新規設立にむけた手引き

Ver.1.1 – 2014年11月10日公開
FabLab Japan Network

はじめに

このドキュメントは、新たにファブラボを設立することを検討されている方へ向けたガイドラインとして、その立ち上げと持続的な運営に必要な要素をまとめたものです。

ファブラボ憲章に賛同し、ファブラボの名称を利用するための条件を満たせば、あなたもファブラボをつくることができます。 1

*1: 名称利用のための承認機関は現在存在はしていませんが、「ファブラボ」は所定の条件を満たすラボの固有名詞であるため誰でも名乗ることができるわけではありません。

ただ、持続的にファブラボを運営していくためには、まずはファブラボの中で活躍する人を育て、コミュニティを育てることがなによりも重要です。施設や機材、資金調達など考慮すべき事柄もありますが、いきなりファブラボをオープンしようとせず、まずは設立準備中のファブラボ (Prospective FabLab)として段階的に場を作り上げていくことをお勧めします。


0.ファブラボについて理解を深める

ファブラボの活動は「国際的なネットワーク」と「地域コミュニティに根差した市民のものづくり」の2つを軸としており、会員制のレンタル工房やその他のメイカースペース/ファブスペースとは若干雰囲気が異なります。また、一般へ公開すること、成果をオープンにすること、グローバルのネットワークに積極的に参加する等、独特の決まり事もあります。

まずはファブラボについての理解を深め、自分たちのやりたいことを実現するうえでファブラボと名乗ることが適切かどうか、十分に検討しましょう。近いビジョンを持ちながら、ファブラボと名乗らずに活動を行うという選択肢もあります。

書籍やウェブサイトなどから情報を得る

まずはFabLab Japan Networkのウェブサイトやドキュメントなど資料に目を通し、基本的な理解を深めましょう。

ウェブサイト

ドキュメント

映像

既存のファブラボをまわってみる

ファブラボについて理解するには、実際にラボを訪れて、そのものづくりを体感するのが一番です。ファブラボの価値観や運営体制はラボによって様々です。いくつかのラボを回りながら自身のビジョンに近いラボを訪れることがファブラボのネットワークとつながる第一歩となるでしょう。そしてぜひ、ラボのマスターやユーザーに自分たちのやりたいことやビジョンを話してみましょう。

パーソナルファブリケーションを体験する

もし、まだパーソナルファブリケーションを自身で体験していない方は、まずはできる範囲からその楽しさを感じてみましょう。まだファブラボを訪れたことがなければ、オープンラボやワークショップ等に参加してみましょう。また、高価な機材がなくても、それほどお金をかけずに自宅で始めることもできます。小型のカッティングマシーンやArduinoを使った電子工作キットなどのほか、3Dプリンタも手頃な価格のものが出てきています。実際に各ラボが作った作品をまとめた書籍も販売されていますので、創作のヒントに。


1.ファブマスターとしての経験を積む

ファブラボの持続的な運営にとって一番大事なのは「人材」です。世界のファブラボには、ラボとそのコミュニティをまとめプロジェクトを先導する「ファブマスター」が必ずいます。場所や機材が揃っていても、工作機械を使いこなし、ラボの運営や環境づくりにも配慮できる彼ら抜きにはファブラボは機能しません。

工作機械の使い方等の「技術」のみならず、ラボを運営する「マネジメント」のスキルも求められます。また、レーザーカッターやミリングマシンなどの工作機械の導入にあたって、騒音や粉じんの問題、利用者の健康や安全の確保などについても理解しておく必要があります。

個人であれば、ご自身が経験を積んで、これらのスキルを身につけること。法人であれば、こうしたスキルを持つ人材を見つけたり、人材育成をすることが必要になるでしょう。

国内外のファブラボにインターンとして滞在する

ファブマスターに必要なスキルを身につけるために、ファブラボで一定期間ものづくりを行いながら、そのノウハウを吸収することを強くお勧めします。

また、国際的なネットワークを活かしたプロジェクトを促進するためにも、海外のファボラボにインターンとして滞在することもお勧めです。特に、日本に先駆けて立ち上げが進んでいる海外のファブラボへの滞在は貴重な経験となるでしょう。

海外でのインターンに興味がある方は、同じ志を持って海外のラボに滞在した先輩が下記のラボに在籍しています。まずは相談してみてはいかがでしょうか。

Fab Academyや各ファブラボ主催のイベントなどに参加する

また、ファブマスターを育成するための年に一度Fab Academy と呼ばれるビデオ会議にシステムによる遠隔講義カリキュラム*2もあります。カリキュラムを履修した日本人(海外のラボ経由あるいは国内のラボ経由)も増えています。
*2 現在、開催は所定のファブラボにて(受講に必要な機材環境の条件等より)。その年の開催ラボはFabAcademyのホームページにて随時公開。開催ラボが一般参加を募集告知している場合、一般参加も可。

また、各ファブラボでも独自に様々なブートキャンプやワークショップ等のイベントも行われています。


2.コミュニティを育てる

ファブラボの運営において、マスター育成と同時に重要なのがコミュニティの育成です。

まずは身の回りで同じ楽しみを共有できる仲間を募め、どのようなファブラボが必要かを話しあいましょう。ファブラボの現場を感じることができる映像作品『Making Living Sharing』のも上映会を行うのもよいかもしれません。

また、「だんだんファブラボになっていいく」プロセスを仲間と共有することも大切です。ワークショップを段階的に行うなど、できるところから地域に根差したラボづくりを進めていきましょう。コミュニティみんなでラボのかたちをつくっていき、何年か後にファブラボになっていくのが自然な流れでしょう。

2013年オープンしたFabLab Kannaiは、立ち上げにあたっては 設立準備中のファブラボ (Prospective FabLab)として FabLab 0.1, 0.2, 0.3…と月1~2回のワークショップを繰り返し、1.0まで来たら晴れてファブラボになる、というロードマップをつくりました。また、FabLab Kitakagayaも同様に、場所や機材を揃える前に、ワークショップ等でコミュニティづくりをするところからスタートしました。彼らの手法はこれからラボをつくりたいという方に大きなヒントになるでしょう。


3.場所を見つける

ある程度の機材を置ける十分な広さ、さらに騒音や粉塵、排気の問題もカバーできる場所を見つけることは大きなチャレンジかもしれません。特に都市部である程度の広さのスペースを確保するとなると敷金等少なくない額の初期投資が必要になります。

ただ、今の時代 街中でも入居者がうまらず不動産オーナーの方が悩んでいる場所は各所にあります。特にアパートでもない店舗でもない工業スペースは、一度空いてしまうとなかなか入居者が見つからないことも多いようです(音や・灰、埃も気にする必要のあるFabLabのスペースとしては、むしろ工業スペースの方がよいかもしれません)。

地主や不動産会社によっては地域産業の活性あるいは技術や芸術・デザインの振興に理解のある所もあり、パーソナルファブリケーションの活動に共感してもらえることができれば、初期投資や家賃の問題も違った形で交渉する可能性があります。実際にFabLab Kitakagaya等、地主からのサポートを得て誕生したファブラボもあります。

そういう意味でも、いきなり場所を探すのではなく、小さなワークショップを繰り返しながら地元のネットワークを増やしていくのがよいでしょう。人のつながりが増えていけば、困っている不動産オーナーの方にも出会える可能性も上がるでしょう。


4.工作機械を揃える

機材の調達もまたファブラボを立ち上げる際の大きなチャレンジとなるでしょう。3Dプリンタとレーザーカッターがあればいいという訳ではありません。ファブラボでは、ラボ間の連携をしやすくするために世界共通の機材を推奨しています。国をまたいだ設計・出力のプロジェクトの実現には共通機材の存在が不可欠です。いきなりすべてを揃えることはできなくとも、徐々に機材を導入していくこともあるでしょう。

最新の機材はグローバルで共有されたリストを参照ください。

また世界では、予算規模10,000ドル(約100万円)でFabLabを立ち上げのノウハウを共有するグループ(英語)もあります。資金的に大きな予算が難しい場合は、こちらの議論も参考になるかもしれません。


5.資金を集める

ラボの立ち上げ・運営には実際の場所と機材が必要になるため、一通りの機材を揃えるとなるとまとまった資金も考えることになるでしょう。まとまったお金というと、行政や財団等の助成金がイメージされやすいですが、どうしても外のお金に頼りっきりでは、持続的な経営は難しいでしょう。ワークショップを行う、地元の企業・学校・NPOと共同事業を行う、あるいは収益のために別の事業を立ち上げる等(ファブラボではないですが、IT事業部を持ち、ウェブ制作等の収益を本事業にまわしているNPOもあります)ラボの人や環境によって方向性は様々ですが、きちんと自分たちの力で事業を回せるよう計画を立てましょう。

既存のラボがどのように事業をしているかもヒントになるかもしれません。そうしたノウハウを知る上でも前述のインターンをお勧めします。


6.一般の人々に公開する

FabLabはもともと、マサチューセッツ工科大学ビットアンドアトムズセンターによる、小型化・低価格化・コンパクト化されたデジタル工作機械が広がると「一般の人々」がどのようなものをつくりだすのかを調べる研究活動からはじまりました。2002年に、インドの辺境の村とボストンのスラム街にラボを実験的に設置したところ、地域住民が自発的に、ユニークでストーリー性豊かな「ものづくり」を始めたことがファブラボの起源です。その後も、それまでものをつくったことが無かった人が、さまざまな個性的なアイディアをカタチにする場所、すなわち「パーソナルファブリケーションの最良の実践を生み出す場所」として、ファブラボは機能しています。そうした経緯があるため、現在でも、ファブラボは最低でも週1回ほどは「オープンラボ」の時間を設け、地域住民のひとたちが工作機械を使ってプロジェクトが行えるようにしておく必要があります。世界ファブラボ会議では、各ラボの最良の実践が紹介されます。


7.国内外のネットワークに登録する

国際的な組織Fab Foundationの世界のファブラボマップには設立準備中のファブラボ (Prospective FabLab)として、準備中の段階から登録することもできます。

FabLab Japan Networkは、国際的なファブラボのネットワークにコミットするファブラボ関係者が日本語で情報交換するための有志のコミュニティで、設立準備段階の方でも参加することができます。顔の見える関係を維持するため、参加には複数のファブラボの推薦を条件としています。参加を希望される方は、国内のファブラボとコンタクトをとり、その旨をお伝えください。

また、アジアの国々のファブラボのコミュニティとして、FabLab Asian Networkもスタートしました。こちらもアジアで活動するラボを歓迎しています。


8.国際会議に参加する

本当の意味でファブラボなるのは、年1回開催される世界ファブラボ会議に参加し、ラボ紹介を行った瞬間です。そこで会場から湧く、笑顔と拍手が、ファブラボコミュニティへ迎え入れられた証です。世界のファブラボメンバーに認知されたときにはじめて正式に「ファブラボ」になります。

国際会議の場で新しい日本のファブラボが登場することをFabLab Japan Networkのメンバーも楽しみにしています!


補足

ラボの名前の付け方

FabLab、Fab Lab、ファブラボなど様々な表記がされていますが、FJNとしては英語表記では「FabLab」という表記で統一しています(日本語では「ファブラボ」)。

個々のラボの名称の付け方について、公式なルールはありませんが、特に大都市の場合には、将来的にいくつかのラボが設立される可能性も考慮しましょう。より詳細な地名をつけることが望ましく、最寄りの駅名をラボ名とするのが最も分かりやすいアイデアといえます。(例えば、大阪にあるラボもFabLab OsakaではなくFabLab Kitakagayaとしています)。

なお、名称としてはFabLabの後ろに地名をつけたものが一般的ですが、必ずしもこの形式をとらなければいけないわけではありません。例えば、ユトレヒトのファブラボは、Protospaceという施設名と、FabLab Utrechtという呼び方を併用しています。また、FPGA-CAFE|FabLab TsukubaFLAT|FabLab Sendaiのように、立ち上げ時点ではファブラボと名乗らずに独自の名称でスタートし、ネットワークに参加してファブラボ名称利用の条件を満たしてから正式にファブラボの名称を使う、というプロセスも見られます。

組織(企業・自治体・公的機関)での導入を検討の方へ

個人に限らず、ファブラボ憲章に賛同し、ファブラボの名称を利用するための条件を満たせば、ファブラボ設立することは可能です。ただ、個人向けの手引き同様、持続的に運営していくためには、施設や機材の前にまずは、中で活躍する人を育てる、そしてコミュニティを育てることが重要であり、いきなりファブラボを立ち上げようとぜす、まずは設立準備中のファブラボ (Prospective FabLab)として、少しずつコミュニティで場を作り上げていくことをお勧めします。

実際にアクションを進める際は、まずはファブマスター候補者を決め、既存のラボ派遣・滞在を支援することを当方では強く推奨しております。
国外ではすでに、ペルー政府が自国でのFabLabづくりを見据えた人材育成として、自国の青年を国外の先進的なFabLabへ派遣した例も出ており、こうした国外のラボへのインターンは強く推奨しております。

参考文献:

ファブラボの作り方をまとめたドキュメント(英語)