【FAB11】第11回世界ファブラボ会議(ボストン)が開催されました

田中浩也

第11回世界ファブラボ会議(ボストン)が2015年8月3日から9日まで開催されました。個人的には、第5回(インド)から数えて、第6回(アムステルダム)、第7回(リマ)、第8回(ウェリントン)、第9回(横浜)、第10回(バルセロナ)に続き、7回目の参加です。年々会議の参加者は増え、今年はついに1000人を超えたそうです(第9回横浜は200人、第10回バルセロナは500人でした)。

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昨年の第10回大会のテーマが「FabCity」だったのに対して、今年のテーマは「Making:Impact」です。ここでの「インパクト」という用語は、「小さいけど実際に起こった衝撃(事実)」のようなニュアンスでしょうか。大量生産とは別のものづくりを掲げるファブラボでは、必ずしも「数」や「量」の論理ではなくても、ある一人の人間の人生を劇的に変えたり、ある小さな村の状況を大幅に改善したりということが起こってきました。そういったひとつひとつの事実、そしてその集積が「インパクト」です。10周年を迎えたいま、この間にどのような「インパクト」を生み出してきたのか、その足跡をもう一度振り返り、確認するようなイベントが、隅々に配されていました。

特に象徴的だったのは、世界でもっとも古いファブラボの一つ(FabLab001の称号がつきました)、サウスエンドテクノロジーセンターのファブラボ・ボストンです。10年前、ここはスラム街でした。決して治安は良くなく、そして異なる国からやってきた移民の間の不信も強く、コミュニティは崩壊、そして学校に通うことのできないアフリカ系の子供もたくさん住んでいました。そのような荒れた場所に、学びのためのコミュニティーセンターをつくったのがメル・キング氏でした。初期はインターネットとパソコンが使えるITルーム、そして音楽室が設置されましたが、後から世界で最初のファブラボがインストールされました。その結果、新しいまなびの場になったわけです(この詳しい経緯の説明は、「FAB―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションヘ」にお馴染みです)。いまでは治安もよくなり、社会状況も大幅に改善されましたが、大学(MIT)の中にあった機材を「貧困地域」に持ち出したことが、ファブラボのはじまりだったことは、改めてメッセージとして届けられました。

また、ボストンシンフォニーホールで開催された今年のシンポジウムでは、10年間、さまざまな分野でインパクトを生み出してきた人たちが呼び集められ、デザイン、ビジネス、ツール、リサーチ、コミュニティ、教育の各分野でデジタルファブリケーションが何をもたらしたかが議論されました。Little BitsやForm-1といった日本でもお馴染みのツールキットの開発者も勢ぞろいし、それぞれのプロジェクトをTED風にストーリー性豊かに語りました。これらの様子はすべてビデオと写真で公開されています(Fab11 Videos)。

シンポジウムの最後は、来年の第12回大会開催地である中国のシンセンの紹介でした。おそらく来年のテーマは次の2つに収斂されるでしょう。ひとつは、ハードウェアスタートアップです。通常ソフトウェアを開発する場合、ネット上からたくさんのライブラリを集めてきて組み合わせてつくりますが、ハードウェアでは「部品」を必要とします。部品は物理的なものなので、ダウンロードできません。その「部品」が、豊富で、安く、速く、手に入れられるという特別な町であるという意味で、シンセンはハードウェアが世界でもっとも作りやすい場所と言われています。そして近年ではそこから起業するまでのサポート体制も構築されています。

そこにシンクロしてくる、もうひとつのテーマが、「FabLab2.0」のコンセプトです。「(ほぼ)なんでもつくる」ことを精神としているファブラボでは、3Dプリンタやレーザーカッターといった、与えられた工作機械の枠内で発想を閉じるのではなく、むしろ必要であれば「新しい工作機械」さえも発明してつくってしまおうとする志向を持っています。まさに部品の宝庫であるシンセンは、「ファブラボで自作の工作機械をつくる」2.0に進化するのにうってつけの場所である、というわけです。これまでのファブラボは機材の標準化を進めてきましたが、次のファブラボはそのうえでさらに多様な展開をしていくことになるのだと思います。機械さえもつくっていくのですから。最初の10年が終わり、次の10年のはじまりにあたって、しばらくはこの「ファブラボ2.0」のコンセプトを軸に世界の活動が動いていくのではないかと予感できました。

もうひとつ、今年、各国のファブマスター達といろいろ話して感じたことは、5年前よりも全然別の次元に各ラボの自主活動が進化していたことです。これまでファブラボは「世界的ネットワークであること」がその特徴だと説明してきましたが、それは端的に言って、手段と目的を取り違えた、的はずれな説明でした。世界的なネットワークであることは、「進化を促す」ための手段すなわち加速装置です。ファブラボで一番大切なことは、ラボの活動を、弛まずアップデートすることなのだ、ということを強く感じました。これは日本のファブラボにも必要なことだと思います。

なお、来年は第3回アジアファブラボ会議(FAN3)もインドのムンバイでの開催です。期間中に、世界最古のファブラボのもうひとつ(FabLab000)、ヴィジャンアシュラム(パベル村)の見学も予定されています。よりアジアの連携を深めていく機会となればと思わずにはいられません。