【from Sendai】『FabResearch|宮城大学 土岐謙次研究室』と探るものづくりの未来

こんにちは、ファブラボ仙台 マネージャーの小野寺です!

これまでのラボレビューでは、ファブラボ仙台のリニューアル情報や、日々のできごとについてレポートしました。今回は、設立当初から共同でプロジェクトを行なっており、現在FabResearchとして連携させて頂いている宮城大学 土岐謙次研究室についてご紹介します。


宮城大学土岐謙次研究室とは?

漆(うるし)デザイナーであり宮城大学デザイン情報学科 准教授の土岐謙次先生は、これまでに日本の伝統的漆工芸と、CADをはじめとしたデジタルデザイン技術の融合による新たな工芸・アートワーク・デザインの世界を提案されています。その作品は世界各地の美術館にも収蔵されています。

 

01土岐謙次氏|七宝紋胎乾漆透器(流氷柄)(2013)

例えば、この“七宝紋胎乾漆透器(しっぽうもんたいかんしつとうき)”は、漆と麻や綿の布を幾重にも積層して作られた“乾漆(かんしつ)”の平板をレーザーカッターで切り抜き、更に漆塗りで仕上げた部品を連結させてつくられた作品です。土岐先生は、立体形状のデザインにRhinocerosやそのプラグインのGrasshopperといったコンピュータによる設計支援システムを利用するなど、アナログ(手仕事)とデジタルを自由に行き来しながらのものづくりに取り組んでいらっしゃいます。

02宮城大学 土岐謙次研究室 研究テーマ “漆の未来を考える。”

そんな土岐先生が主催されている宮城大学 土岐謙次研究室のテーマは、『漆の未来を考える。』。工芸技術や素材として認識されている漆ですが、その先の可能性を探り、未来を啓くことをミッションに、“研究開発”、“啓発”、“育成”の3本柱で活動をしています。

ファブラボ仙台はそのなかでも、主に“啓発”の柱をベースに共同でプロジェクトを行なっています。

これまでの“漆プロジェクト”

2013年5月にファブラボ仙台がオープンしてから、“漆プロジェクト”では様々な取り組みがなされてきました。なかでも、土岐謙次先生と仙台市内に工房を構える株式会社 郷自然工房 工房長 佐藤和也さんが開発された、“乾漆シート”を用いたワークショップは、これまでに何度も開催しています。

03“乾漆鹽竈桜ブローチワークショップ”の様子(共催:塩竈市杉村惇美術館)

塩竈市杉村惇美術館さんとの“乾漆ブローチワークショップ”シリーズは、あらかじめレーザーカッターでカットされた乾漆パーツを組み合わせてオリジナルのブローチを作るというものです。季節ごとに異なるモチーフをデザインに取り入れているだけではなく、各回限定色の乾漆パーツをご用意しています。参加されたみなさんの素敵な作品やワークショップの様子は、下記のサイトにまとめていますのでぜひご覧ください!

OLYMPUS DIGITAL CAMERA“自分でつくる乾漆ランプシェードワークショップ”の様子
(共催:
KUMIKIプロジェクト運営:株式会社紬)

また他にも、KUMIKIプロジェクト(運営:株式会社紬)と共同で、“自分でつくる乾漆ランプシェードワークショップ”を行なっています。これまでマテリアルとして使ってきた“乾漆”を自分の手で一から作りオリジナルのランプシェードに仕上げていこうというワークショップです。現在参加者のみなさんは、11月末の作品発表会に向けて作業に取り組まれているところです。その様子はファブラボ仙台のブログでもご紹介する予定なのでどうぞお楽しみに!

“和紙”などの工芸分野における技術継承方法の研究

土岐先生とのプロジェクトは、工芸や素材の啓発や活用方法の探求だけでなく、伝統工芸等に関わる技術継承方法の研究もその一つです。

05〈宮城県白石市で作られている“拓本染”〉

宮城県南部に位置する白石市では、古くから“白石和紙(しろいしわし)”の製造が行なわれていました。障子紙や書画用紙としてのほか、和服等にも使われていた“白石和紙”ですが、独自の加工方法として“拓本染(たくほんぞめ)”というものがあります。

“拓本染”は、植物染料などで薄く染めて蒟蒻糊(こんにゃくのり)を揉み込んだ和紙を、模様の彫り込まれた版木に叩いて密着させ、その凸部分に色付けをしていくという技法です。元々は、ホウやカツラの板に模様を下書きし、ひとつひとつ手彫りして版木が作られていました。しかし現在では、数少ない職人さんの高齢化に伴い、新たな版木の制作が困難な状況となっています。

 

06レーザーカッターを使って作った版木(右上)と“拓本染”のサンプル

そこで、コンピュータでデザインデータを作成し、レーザーカッターで薄板をカットして簡易的な版木を制作するという実験を行ないました。蒟蒻糊の濃度調整や和紙を叩くのに使用する道具の選択など、試行錯誤を繰り返して技法の再現を目指しました。

マシンで加工したものに比べて、手彫りの版木は凸部分のエッジにやや丸みがあるなどといった版木そのものの違いによる仕上がりの差はありますが、想像以上に美しい仕上がりに学生さんと一緒に大興奮。昔ながらの“拓本染”の技法と、現代的な技術で作られた版木を組み合わせて、これからどんなものが生み出されていくのかとても楽しみです。

最後に、土岐先生よりご挨拶を頂戴いたします!


FabLab Japan Networkのみなさん、こんにちは。宮城大学デザイン情報学科の土岐謙次です。私は手しごととデジタル技術の相補的な実践を通じた研究によって、伝統工芸、なかでも特に漆の諸作業においてデジタル化・機械化を進めてきましたが、手仕事に依存する仕上げ工程や加飾技術を完全に代替する意図はありません。むしろ、手仕事に不可能な領域を現代的技術で補い、または拡張し、これまで従事者のみに限定されていた漆に関わる技術を、デジタル基盤を通じて異分野にも開放し、伝統工芸の文化的価値を次世代に継承してゆくプラットフォーム作りを目指しています。

具体的には以下の3つを柱として研究を進めています。

1)漆の機能的性能を再評価すること(開発)
2)伝統工芸素材を原料からつくること(育成)
3)伝統工芸技術をデジタル技術で共有・伝承すること(啓発)

みなさんとは主に3)の活動で様々なかたちで協力できればと思っています。よろしくお願いします。

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