【from Tsukuba】教材としての自転車

こんにちは、ファブラボつくばの機械屋こと井村です。スタッフとしてファブラボの活動に参加させていただき早くも1年半が過ぎました。毎週つくばのラボでお客様と接したり、全国各地のファブラボに伺っていろいろな方とお話をしているといつも新鮮でワクワクした刺激を受け本当に楽しく有意義な時間を過ごさせていただいております。

 ところで、私の本業が機械エンジニアと言うこともあり、ラボに訪れる方からよく作品の構造や機構、加工法についての相談を受けます。実際に制作されたものを前にお話を伺うと具体的なアドバイスをすることが出来るのですが、大きすぎて持って来れないとか、あいにく持参していない場合は、対応に苦慮することがあります。なにより質問される方の多くが機械に触れたり工具を使って作業された経験が少なく「機械は難しい!」とおっしゃられます。

 ものづくりにおいて「物体」を扱うことは避けて通ることは難しく、機械や工作法、工具の使い方についてのスキルを身につけることが出来れば、よりよい作品を作ることが可能となり、さらなる新しい世界に踏み込むことが出来ると確信しております。そこで、これらのスキルを身につける格好のプラットホームとして自転車を取り上げていきたいと思います。

何故自転車か?

 実は自転車は機械や工作について学ぶのに最適な教材なのです!理由を下記に示します。

(1)自転車は機械工学における殆どの要素を含んでいる。(機械工学の塊)
(2)自転車は大変身近で殆どの人が使ったことがあり手に入れやすい。(身近)
(3)自転車は人間が直に使うので大きすぎず小さすぎず扱いやすい。(調度いい)
(4)自転車は標準化され情報が豊富で学び易く、応用や他への適用が容易。(高い汎用性)
(5)自転車は実用的、楽しい、健康、スポーツ、モビリティー・・。(高い社会性)
(6)自転車は文化、芸術、伝統と最新技術が高い次元で融合している。(芸術、文化)
(7)自転車は水中を除く陸・空のいかなる生物、機械の中で最高の移動効率を誇る(省エネ)

 この中で(2)(3)は学びの入口が低いという意味で非常に有利だと思います。さらに、(4)(5)(6)(7)は学ぶ目的として大変意味あるものと考えます。注目は(1)です。このことについて少し説明いたしましょう。

自転車ってそんなにすごいの?!

 そうなんです。すごいんです!自転車の歴史はそれほど古くはなく約200年あまりです。欧州で発明され当初から2輪(bicycle)を堅持し、空気ゴムタイヤとチェーンで動く形に定着してから約100年経ちますが、構造上の大きな変化はありません。

 ただ、人間という限られた動力でより速くより遠く安全に移動できるかを突き詰めた結果、産業革命など歴史上の様々な最新技術を吸収することで現在の洗練された日常の道具にまで進化しました。逆に自転車を形作る技術はその後発展する自動車、鉄道、飛行機(ライト兄弟は本業が自転車屋)などに広く応用されていきました。このことからも自転車は機械工学上の基本要素を殆ど兼ね備えていることがわかります。

機械工学と自転車の関係

 自転車の各部が機械工学の各要素とどのような関係があるのかを図1に示します。それぞれどの様な役割と意味があるかを理解しながら自転車をいじったり使ったりしているうちに何処にどのくらいの力が掛かってどの様に動くのか、どの位の強度や剛さ軟らかさがあるのかを感覚として理解出来るようになるでしょう。そうすれば機械に関するスキルが向上して自分の意図した作品をしっかりとした形「丈夫で正確に動作する」で制作することが出来るようになると思います。

図1 機械工学の要素と自転車の各部との関係

図1 機械工学の要素と自転車の各部との関係

  • 材料力学:各部品に掛かる力の状態を把握してその部品が破損するか否かを知る。
  • 機械力学:各部品が相手からどの様な力を受けてどの様な速度で動くのかを知る。
  • 流体力学:自転車が走行しているときに空気や水溜りから受ける抵抗を知る。
  • 熱力学:タイヤに空気を入れる際にポンプと空気の熱的性質を知る。
  • 潤滑工学(トライボロジ):車軸やクランクがスムーズに回転したり、タイヤやブレーキが確実にグリップするようにする方法を知る。
  • 機構学:チェーン、クランク、ギヤ、シフトチェンジ、ブレーキなどの動作軌跡を知る。
  • 機械材料:自転車に使われている金属、樹脂、ゴム、複合材などの各種材料の性質を知る。
  • 加工技術:各部品を作るとき削ったり、延ばしたり、曲げたり、鋳込んだりする方法を知る。
  • 接合工学:複数の部品を結合する方法を知る。
    • 機械的接合(ねじ、くさび、リベット、圧入)
    • 冶金的接合(溶接、ロウ接、半田付け)
    • 接着、粘着
  • 設計工学: 機械設計製図、機械系CAD,CAE,CAM、実装術など

【機械工学以外に関係する工学分野】

  • 生体工学:人間による効率的なペダリング、ハンドル操作法などを知る。
  • 電気・電子工学:フロントライト、テールライト、ダイナモなどに使われる技術。
  • 計算機工学:サイクルコンピューター、スマホなどに使われる技術。

 

自転車の修理、再生ワークショップ開催

 少し堅苦しい説明になってしまいましたが、理屈は後にして実際に自転車をいじってみるのが一番です。そこで、自宅に眠っている使えなくなった自転車を供出していただき、それを修理、再生して普段の生活で使えるようにするワークショップを何回か開催させていただきました。

【FabLabつくばで廃棄寸前の自転車を再生してママチャリレースに出場】

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【FabCamp2015@Fablab北加賀屋での自転車修繕・改造ワークショップ】

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【ハイパーネットワーク別府湾会議2015でのトラックC-2 放置自転車の再生】

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 参加された皆さんは初めての方が多いにもかかわらず全員真剣なまなざしで自転車修理に取り組んでいただきました。そして、「やってみると意外と簡単に出来ました。」との感想をいただき、「パンク修理やチェーンの調整くらいは自分でやってみます。」と多くの方がいっていただきました。何より修理が完了して軽快に乗って帰られるときのオーナーさんの笑顔は忘れられません。

Fab社会と自転車はお友達

 自転車は私たちにとって身近で実用的であるにもかかわらず放置自転車の現実にもあるようにあまり重要視される存在ではありませんでした。しかし、これからの社会にあって大変有用な道具であり教材であると考えます。そうです。自転車はFab社会におけるお友達です。皆さんも手元にある自転車に目を向けてみましょう。直接自分の手でメンテナンスをしながら使ってみてください。自ずと自転車に愛着がわいてきます。そんな愛車にまたがって、まだ見ぬ新しい世界を探検してみませんか?これからも自転車を通して機械の面白さ楽しさを積極的に伝えていきたいと考えております。