[Fab Trip] FabLabガーナ訪問レポート

ファブラボ鎌倉の活動に参加している青木翔平です。
去る2012年3月にガーナ共和国のTakoradiにある
FabLabガーナを訪問しましたのでその様子をレポートします。

Takoradiは首都アクラから車で4時間ほど西に行った
海岸線沿いの都市で、ガーナ第3の都市と言われています。

FabLabガーナは、Takoradi Technical Institute(通称TTI)の中に
開設されています。


Takoradi Technical Institute


TTIの学生たち

TTIは公立の高等教育機関で、日本で言うと工業高校に
あたる教育機関です。
卒業生は各種産業へと就職したり、ポリテクニーク(工科大学)へ
進学する学生もいます。
TTIは高校教育だけでなく、ポリテクニークの学生や
石油採掘などのマイニングエンジニアによって
研修の用途で利用もされています。

FabLabガーナの誕生は、2004年にMIT、Center of Bit and Atomsの
アメリカ人学生2人がガーナにおけるFablabの開設を
打診してきたことに端を発します。
ガーナ国内における場所の選定において、工科大学の内部に開設するか
TTIに開設するかで教育委員会などで議論があったようですが
FabLabの趣旨などからTTIが適切であると判断されました。

FabLab Ghana

MITからの呼びかけで始まったという経緯もあり
資金的な面でのMITからの支援は大きいです。
機材や書籍などはMITからのサポートです。


様々な機材が置かれている

FabLabガーナのファブマスターはエマニュエル・アザッソ先生という方で
電子工学の先生です。
FabLabガーナ設立以後は、FabLabの専属として活動されています。


校舎を案内してくれるアザッソ先生

◎設備

FabLabガーナが所有している機材は以下のようなものです。
・レーザーカッター


レーザーカッター

特筆すべきは、ひたすらアクリルを切っていたことです!
ファブラボ鎌倉では木を切るためにレーザーカッターを使うことが多いですが、Fablabガーナでは木は切っていませんでした。


アクリルを切り出して作ったガーナの地図パズル
(隣にはチェス盤や三角定規などもあります)

FabLabの地域性が機材の使い方にも反映されているようで面白いです。

アクリルの切断は匂いが強いですが、うまく換気していたので
そこまで気にはなりませんでした。

何やらデモを見せてくれるようです。


レーザーカッターにデータを送信している。何だろう、わくわく。

僕の名前入りのネームプレートを作ってくれたのでした。


キーホルダーとして使えます。うれしいお土産!

・3Dプロッタ Modela


Modela MDX-20

ファブラボ鎌倉にもあるModelaですが、主にプリント基板作成用に使っていました。

・CNCプラズマカッター


プラズマカッター(手前に置いてあるのはRolandのカッティングマシン)

写真にあるようにプラズマカッターが置いてありましたが、
故障していて現在は稼働していないとのことです。

・CNCミリングマシン


CNCミリングマシン

MITで設計されたマシンと同じ形式のものを複製していました。
フレームはアクリルで、レーザーカッターで切り出しています。
ステッピングモーターも取り付けてあり、外枠はできているのですが
プログラムの面でまだ調整中です。
FabLabガーナを利用しているあるTTIの学生は、ハードウェアの製作スキルに比べて
まだまだプログラミングのスキルが追いついていない、と言っていました。
わからないことは他国のFabLabの方とメールでやりとりするなど
技術的な交流もあるようです。

これから日本のFabLabもどんどんつながっていきたいですね。

・3Dプリンタ

ファブラボの標準的な機材である3Dプリンタですが
FabLabガーナには置いてありませんでした。
Modelaで片面ずつ加工し、それらを接合して
3次元形状を作り出すから大丈夫だ、とのことです。

ちょっと意地悪に、「でも、本当は欲しいんじゃないんですか?」と
聞いてみたら、皆さん爆笑しながら「実は欲しい」とおっしゃっていました。

・電子工作セット

さすが工業高校とだけあって電子工作はお手の物です。
電子部品はガーナ国内で流通していて手に入るものも多いですが、
入手性の悪い部品については海外からの訪問者に
持ってきてもらうこともあるようです。


半田ごてセット

棚に整理された電子部品

・その他

FabLab機材の他にも、工業高校ということもあって
溶接や金属加工の設備が備えられていました。

機械加工を行う学生たち

また、プログラミング関連や電子部品に関する書籍も本棚に
取り揃えてあったのですが、なぜか鍵がかかっています。

檻に入れられた本たち

先生によれば、なんでも借りた本を返さない人がいるので
鍵をかけることにしたとのこと。
開けてもらえませんか?と聞いてみたら
今鍵がどこにあるかわからないそうです。
結局1時間後くらいに開けてもらうことができましたが
せっかくの書籍、有効利用できればいいですね。

◎作っているもの
主に電子工作や機械ものを中心に製作していました。

・停電時のためのLEDライト
ガーナをはじめ、この西アフリカ一帯では電力の供給事情が芳しくありません。
そこで、停電が起こった際に自動で点灯するライトをLEDを利用して作っていました。
仕組みは光センサであるCdSを使ったシンプルなものです。

・警報装置
赤外線LEDとフォトセンサを使った警報装置で
物体が光線を横切るとブザーが鳴る、という仕掛けのものです。
使い道がよくわからなかったので何に使おうと思って作ったの?と
学生に聞いてみたところ、笑いながら
「警備員が仕事中にふらふらどこかに行ったり
いても寝たりするので代わりに使うんだ」
と言っていました。
(警備員もっと頑張って!という感じですね)


赤外線を利用した警報装置の試作機

・フフマシン
西アフリカでは「フフ」という芋を臼杵でついてお餅状にした料理をよく食べます。
道端の屋台で3人の女性がテンポよくフフをついている光景を見かけますが、
これを自動で作る機械の試作機を見せてくれました。


フフ自動調理マシン

試作機ということもあって実用化にいたるかはわかりませんが、
このようにいずれ製品化できるようなプロトタイプをどんどん
ファブラボで生み出していきたいという思いが伝わってきました。

まだモーターがつながれていないので、手回しによるデモを見せてくれた

◎開館時間および利用者
平日8:00am-6:00amで開いています。
現在の利用者は主にTTIの学生ですが、他の学校の学生や一般の人々も
利用が可能です。

◎FabLabガーナの特色
アザッソ先生からお聞きしたところによれば、TTIという高等教育機関の内部に
開設していることからも、ここでの活動は教育が大きなキーワードであるそうです。
彼は、学校で身につけたスキルを応用して実際に必要なものをつくる
(これをクリエイティビティと呼ばれていました)ことの重要性を説きます。
学習した基礎的なスキルはあっても、どのように問題を見つけて
どう応用していくかをプロジェクトベースで学ばなければならない、
その機会がガーナの教育には不足しているのだと。
その学習と応用とのギャップ(それをミッシングリンクと呼ばれていました)
の克服に、このFabLabガーナを通して取り組んでいきたい、
それがアザッソ先生のお考えでした。

 

まとめ

今回海外のFabLabを初めて訪問して、
必要なものを自ら生み出そうという同じ考えを持ったFabLabの人々と
交流することができ、楽しい時間を過ごすことができました。

また、ガーナの文化や生活様式をかいま見ることができたのも大きな収穫でした。

最後に、学生たちと話している中で印象に残ったエピソードを紹介します。
電子回路を駆使して様々な製品を作っているが、
一体どのようにして設計しているのかと不思議に思い、彼らに尋ねたところ
学生の一人はこう答えたのでした。

「わからないことはインターネットで調べればいい」

当たり前といえば当たり前なのですが、
これは僕にとって大きな気づきを与える一言でした。

日本から遠く離れたガーナというアフリカの地でも
インターネットという日本と同じ情報インフラを使って情報にアクセスしている。
これって、ファブラボでも同じことが言えるのではないかなと。

作っているものは違えども、使っている機材はほとんど同じ。
何より、ものづくりを楽しもうという姿勢を利用者が共有していて
その人の輪が世界中でつながっている。

ファブラボは単なる工作施設ではなく、コミュニティであり
そのネットワークであるということ。

ものづくりの知識や体験はグローバルに共有して、
実際に作るものはローカルの特色を反映する。
FabLabはそんなものづくりのための
インターネットのようなインフラに成り得るかもしれない、
そのような期待を抱いた今回の訪問でした。

 

<追記>
ガーナより帰国した後に、国際協力機構(JICA)
青年海外協力隊のPC隊員としてTTIに派遣されていた
今泉智子さんにお話を伺いすることができました。

今泉さんは隊員としてのお仕事の傍ら
FabLabで学生たちと一緒に活動されていたそうです。
FabLabガーナにはTTIの生徒たちのみならず
先生達の子どもや近くの小学生や中学生達も放課後に訪れて
インターネットで調べ物をしたり
ラボにある機材で作品を作っていたという
お話を伺うことができました。

僕がFabLabを訪れた際に、小学生くらいの子供たちがブロックで
遊んでいたのですが、これはどうやら近所の小学校の子供たちのようです。

ブロックで遊ぶ子供たち

やはり他のFabLabとも交流があるようで
2009年夏にはガーナの首都アクラで開催されたMaker Faire Africa
ケニアのナイロビ大学のFabLab(原口さんの訪問記)と共同で
作品を出展されたそうです。

また、ガーナで聞きそびれた
「なぜ木ではなくアクリルをレーザーカッターで切っているのか」
という点について今泉さんに尋ねたところ
FabLabガーナでは「木は燃えたり焦げたりして綺麗にデザイン出来ないから」
という理由でアクリルを主に利用しているということがわかりました。
ファブラボ鎌倉ではレーザーの出力を調整することで
木の焼き加減も表現の一手法として活用していますが、
場所が変わればものの見方が変わる好例だと思いました。

 

24件のコメント
  1. FabLabJapan.org より:

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  14. いいですね、旅!興味深いレポートです。こうしたレポートが積み重なっていく感じもいいですね。 RT @Hiroyeah: 青木君によるファブラボガーナ訪問記。http://t.co/8eOxTs2H  旅に出たくなるなぁ。いいね!

  15. 工業高校の中にあるのですね。RT@Hiroyeah 青木君によるファブラボガーナ訪問記。http://t.co/Wsz70Ltk  旅に出たくなるなぁ。いいね!

  16. まりす より:

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  18. 小島成輝 より:

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  19. K. Kurosawa より:

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  20. Jun Kobayashi より:

    アザッソ先生の「その機会がガーナの教育には不足している」って、日本に対しても言えることではないかな。 http://t.co/ccHMI6US

  21. Jun Kobayashi より:

    FabLabガーナ訪問レポート http://t.co/zNViOXSh アザッソ先生の「その機会がガーナの教育には不足している」って、日本に対しても言えることではないかな。

  22. TSUDA Kazutoshi より:

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  23. ynbr/pnch より:

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  24. 知り合いがガーナ共和国のFabLabに出向いてきた見学記です。工業高校内にあるだけに、近いものを感じました。http://t.co/Wsz70Ltk

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