How To Grow Almost Anythingとは?
FabLabネットワークを利用した授業として、これまで「FabAcademy」が開講されてきました。今年もFabAcademy 2015が鋭意開講されており、国内からも12人の受講生が日々課題に取り組んでいます。FabAcademyはMITの授業「How To Make Almost Anything」(略してHTMAA)の内容を踏襲したものとしてFabLabに設置されたデジタルファブリケーション機材やソフトウェアを使って「ほぼ、なんでも」作ってしまう技術や心得を習得しようという講座です。
この講座のコンセプトを継承する形で、バイオ版として開講されたのが「How To Grow Almost Anything」ほぼ、なんでも育てる方法(以後:HTGAAと表記)という授業です。昨年2016年8月から同年12月まで行われたHTGAAには世界中のFabLabから29名(うち、日本からは鎌倉、山口、浜松の3ラボ、計6名)が参加しました。浜松からも2名が参加して慣れないバイオの勉強、法的な対応、バイオの機材の整備などほぼゼロから取り組みました。
何ができるのか?
自分も全講座を受講し終えるまで「何が出来るのか」想像もつかない状態で授業を受けていました。正直、バイオという言葉の響きからは「バイオ兵器」「遺伝子組み換え」「クローン人間」…などなどネガティブなイメージの方が多く持っていましたし、「遺伝子検診」「品種改良」などのについても詳しくは知らず、「品種改良」と「遺伝子組み換え」の違いもわかっていない状態でした。
しかし、一方で近年アメリカ、ヨーロッパなどでファブラボのようなオープンなバイオラボの立ち上げが増えて来ているというのは聞いており、一体彼らは「何をしているのか?」というのが自分の一番の感心でした。
今回の授業を終えて、タイトル通り「ほぼ、なんでも育てる方法」を習得するにはまだまだかかりそうですが、自分の中で変わったことがいくつかありましたので後述したいと思います。
どんな授業か?
授業は全17回で毎週水曜の夜に行われました。FabAcademyと同じく毎回課題が出され、毎週取り組んだ成果を授業の前半に発表します。後半は毎週違ったトピックについて、その道の研究者が講義をしてくれます。内容はかなり専門的でバイオに関する知識ゼロからのスタートでは辛いものでした。しかし、取り上げられるトピックは新鮮でまさに未来と現実を考えさせられるものでした。例えば遺伝子編集の仕組みや、それを応用したアプリケーションの開発例、ファブラボやオープンソースとバイオラボの関わりなどについてです。
タンパク質のモデルを配布されたシミュレーションプログラムで作り3Dプリントした
オープンソースで情報が提供されていて、ファブラボで製作可能なバイオ機材
感じたこと
授業の中で感じたキーワードは「遺伝子編集技術」や「遺伝子読み取り技術」の急速な進展、その中での安全性の確保や倫理問題です。
授業の中でも取り上げられたトピックの一つが「ジーンドライブ」に関する話題でした。これはマラリアを媒介する蚊を撲滅するために、特別な遺伝子を組み替えた蚊を自然に放して代を重ねるごとにその特別な遺伝子を持った蚊を増やしていくという技術です。講義の中では自然や生態系に与える影響を考えることが必要である一方で、マラリアに感染して亡くなる人が大勢いる。一度野に放せば予期せぬ事態を招く可能性もある技術を使うべきか、見送るべきか。このような議論をどう進めるべきであるかという問いが投げかけられました。参加していた他のラボの参加者から「事態はラボではなくアフリカで起きているのだ!」という一時熱くなるシーンも見られました。
技術の進歩から得られる恩恵と、招く悲劇について考えるきっかけになりました。
今や高校生でも遺伝子組み換えができると言われるほど技術が確立された中で、安全性や倫理問題とどう向き合うかということに対して世界中のアーティスト、専門家が立ち向かっている姿を見ることができたと共に、オープンなバイオファブラボを各地に普及させることが、このような問題にどう寄与出来るかということを考えさせられました。
3Dプリンタの「銃自作」やドローンの「落下」「プライバシー侵害への懸念」のようにバイオラボも「不安」にさせる要素を多分に含んでいます。そのような中で健全なバイオラボが発展するよう国内のラボや研究者とコミュニケーションをとっていきたいと考えています。
本当に「ほぼ、なんでも育てられる」ようになるように。そしてそうなった時のために。
今回の授業を通じてファブラボ浜松で集めた機材