FabLab Boholの徳島です。今回の記事ではFabLab Boholの近況報告にかえて、
・ボホールの地方行政とFabLab Bohol
・日本の理工学系大学(大阪大学+慶應義塾大学)とFabLab Kitakagaya+FabLab Kannai
が共同で開催する「i2i :共創のワークショップ」(以下、i2i)について報告させていただきたいと思います。
このワークショップは、先進国のクリエイターと開発途上国のクリエイターが共同でものづくりを行い、途上国に“コンテキスチュアライズド(Contextualized:状況に応じた)・イノベーション”を創出する、というコンセプトで開催されます。
このコンセプトを受けたタイトルの「i2i」は、i to i (アイ・トゥー・アイ )のことで、
・I(私)から I(私)へ(一人称の私と私)
・Idea(アイデア)からInnovation(イノベーション)へ
・私から生まれるイノベーション
などの意味を表しています。
これまで、デザインやものづくりの分野では、先進国のデザイナー・エンジニアが開発途上国支援のためにイノベーションを「提供しよう」とする活動が、数多く試されてきました。その中でも特に注目されたものとして、2000年はじめに世界的に反響を呼んだ「Design for the other 90%」展示会で紹介されたプロダクト群があります。
しかしこの「Design for the other 90%」からおよそ10年が経ち、実際の開発途上国の現場では、これら2000年当初に絶賛された試みは、必ずしも成功だったとは言えない、という声が聞こえてくるようになりました。たとえば上図左の、汚水を飲み水に変える事ができる「ライフストロー」は、それが配られた当初は安全な水の提供に一役買ったものの、現地ではリフィルを交換することができず、住民は元の安全な水が手に入らない生活に戻らざるを得ない、という可能性があることが分かってきました。同じく上図右の、井戸水を楽に遠くまで運ぶことができるようにする「Qドラム」も、アフリカの炎天下ではドラム内に放置された水が痛んでしまったり、ボウフラなどの虫が発生したりするなどして、次第に使われなくなっていくというケースが起き得る、ということが分かってきました。
これら開発途上国の生活を向上しようと「外部から提供」されたイノベーションは『現地の人の命を脅かす危険性もはらんでいる』ということ、そして、普段先進国に居を構えるクリエイターが、数日から数ヶ月ほど開発途上国に滞在して作るプロダクトでは『真に現地の生活を向上する効果的・持続的なイノベーションとなる事は難しい』ということが、徐々に理解されるようになってきたのです。
では、私たち先進国のクリエイターはどのようにして、ものづくりを通じて開発途上国とそこに住む人たちと手を取り合い、助け合えるのでしょうか。この問いを受けて、2000年代はじめまでの試みへの反省を踏まえ、最近注目されているのが、“先進国と途上国がフラットな関係・同じ目線で「共創(Co-creation)」を行う”という、新しいモノづくりの在り方です。
この根拠となるものが、MITとアフガニスタンのFabLabとの共創から生み出され、インドでも広がっている、インターネット網のない田舎の地域にインターネットの電波を届けるためのDIYの木製WiFiルーターや、慶應義塾大学・FabLab KannaiとフィリピンのFabLabとの共創が生んだ、義足制作用の3Dプリンターなどを初めとした、数多くのコンテキスチュアライズドなイノベーションです。
私たち日本側のi2i実行委員会は、これらアフガニスタンやインド、フィリピン、での先例にならった共創のコンセプトのもと、先進国のクリエイターが、ものづくりを通じて開発途上国と、そこに住む人たちと手を取り合い、助け合う活動を行うための新しいスキームを確立することを目的に、このi2iを開催します。
そしてゆくゆくは、日本だけでなく、広くアジアの先進国のクリエイターと途上国のクリエイターが共創するための新しいスタンダードな枠組みを作り上げることを目標としています。
ワークショップは、日本とフィリピンの現地がシンクロしながら、おおよそ以下のように進められます。
1.ブートキャンプステージ(デジタルファブリケーションスキルの習得)
- フィリピン側:ハッカソンを行い、自分たちの問題を自分たちで解決するためのイノベーション・アイデアと、それを事業化するためのビジネス・アイデアを発案する。
- 日本側:最低限のデジタルファブリケーション技術(3DCAD、プログラマブルな電子回路、デジタルファブリケーション機器の取り扱い)をマスターし、必要とされる更なる高度な技術を習得するためのチームづくりを行う。【10月24日・25日】
2.プロトタイピングステージ(プロダクトづくり)
- フィリピン側:発案したアイデアを、FabLab Boholを用いてMinimal Valuable prototyping(説明可能な最低限のレベルのプロトタイピング)する。
- 日本側:フィリピン側のプロトタイプを受けて、そのアイデアを実使用レベルまで高め、更に新しい価値を付加し得るワーキング・プロトタイプ作成する。これはフィリピン側と密にコンタクトを取りながら、リーン・プロセスを用いて制作を行う。【11月28日・29日】
3.コ・クリエイションステージ(フィリピン現地での検証・改善)
- 日本側が作成したワーキングプロトタイプと共にフィリピンに渡航し、現地クリエイターと共に現地でのフィールドテスト・ユーザテストなどを行う。
- また、この現地テストの結果を受けて、現地クリエイターと共にFabLab Boholにて新たな改善を実装するための制作を行う。
- 最後に、スタートアップを前提として現地フィリピンの投資家などに向けて、完成したプロダクトとビジネスアイデアのプレゼンテーションを行う。【2016年1月4日〜8日】
4.エキシビジョンステージ(インドで行われる第3回ファブラボアジア会議でのプレゼン・展示)
- コ・クリエイションステージの優秀作品は、インドで2016年3月に開催される、第3回ファブラボアジア会議にて、プレゼン・展示を行う権利を得る。
- 現地に集まる多くのアジアの投資家に向けたプレゼンテーションを行うチャンスを得ます。
フィリピン側のi2i実行委員会のメンバーであるフィリピン現地政府は、このi2iを現地スタートアップ創出促進のための一大イベントと位置づけ、積極的かつ本気で後押しをしてくれています(フィリピン側での現地参加者の募集告知)。
日本側のi2i参加者は、このワークショップを通じて、チャンスを掴もうと本気でものづくりに取り組む現地クリエイターと共に働き、実践的に途上国でのものづくりを学べるというだけでなく、成果によっては現地クリエイターと共にスタートアップにチャレンジする創業メンバーとなるチャンスも得ることができます。
この試みは、日本側・フィリピン側ともにはじめてのチャレンジで、まだ試行錯誤の過程というのが正直なところですが、この第一回ワークショップの経験を活かして、翌年の2016年以降は日本・フィリピンだけに留まらず、中国、韓国、台湾、シンガポール、インド、ベトナム、インドネシアなどの国を巻き込んだ、アジア全域におよぶ共創のワークショップに育てていくことを計画しています。
また、Facebookページ(www.facebook.com/contextualizedinnovation、もしくは「i to i」で検索)にて、i2iワークショップの情報を随時発信しております。ご参加希望やご質問は、Facebookページからメッセージをお送りいただければ対応させていただきます。
今回の第一回「i2i:共創のワークショップ」は、β版と位置づけており、フィリピン、インドへの渡航費やプロトタイプ制作費以外の参加費はありません(実費以外は無料です)。
日本をはじめとするアジアの先進国と途上国のクリエイターが、ものづくりを通じて手を取り合い助け合う、新しいスタンダードを確立する、このワークショップへの皆様のご参加をお待ちしています。
詳細・問い合わせ先:Facebookページ:2015 i to i Workshop and Competition