2020年,新型コロナウィルス対応で,夏まではラボのある信州大学教育学部も原則オンラインとなり,学外者の利用も制限されたことで,これまでのラボの活動も停滞を余儀なくされた。その中でもオンラインの活用等,いくつかの取り組みを行えたので報告する。
1.Global Kidsday 2020による海外とのワークショップ
ファブの中でも南米を中心に子ども向けのネットワークであるFab Lat Kidsは,コロナ禍にも負けず,活発な活動を継続している。日本での窓口であり,中心になっているのが,ファブノマドの加藤氏である。加藤氏からの提案により,Fab Lat Kidsのネットワークで「Global Kidsday 2020 ワークショップディ」が開催された。
これは前年の2019年に,日本のこどもの日を機会に,日本の鯉のぼりを世界の子どもたち一緒に楽しもうという「国際子どもの日”Global Kids Day”」の第二段である。2019年では,加藤氏自身もパリに行き,オンタイムでつないでやり取りすると共に,パリの子どもたちが描いた絵をファブラボ長野含め,国内3カ所でカッティング用にデータ化し,作品に活用してもらうといった交流もできた。
本年度は,テーマを「アフリカの虹」とし,各国のFab Lat Kidsの議論により,「ドラム」と「マスク」を作ることとなった。フルオンラインでの開催として,デジタル機器で作成した材料を参加者に送付した上で,Zoom会議の形で、各ご家庭から参加・一緒に制作の形で進めた。同様に,参加各国のラボでワークショップを開催し,交流することにした。
ファブラボ長野でも参加は5家庭と多くなかったが,加藤氏のリードの元,zoomを通し,送付した材料でタイコとマスクを制作し合った。参加した子どもたちも保護者と共に,作品制作を楽しんでいた。演奏の様子の動画は,加藤氏によりGlobal Kidsdayのオンラインカンファレンスで紹介された。zoomでのカンファレンスであったが,200名近い参加者で南米やアフリカ,アジアをつなぎ,アフリカの子どもたちが制作したり演奏する様子を視聴するなど,各国の取り組みが共有された。
オンラインでのワークショップは,材料や加工も当然限定されるが,地域や国を超えて交流できる点は最大のメリットである。教育を軸に置くファブラボ長野では,こうしたオンラインの交流を今後も活用していきたい。中心的役割を果たしてくれている加藤氏にはこの場を借りて感謝をする。
2.ジュニアドクター講座のオンライン開催
昨年からJSTからの委託事業として,小学校5年生から中学3年生まで40名を集め,STEAM教育を展開するジュニアドクター事業をファブラボ長野を中心に展開している。2019年は,実際にラボに来てもらい,デジタルファブリケーションに触れてもらい,様々制作実習も実施していたが,今年度はフルオンラインでの講座となった。ラボからの中継や,教育向けCADのTinkerCADを用いて,受講生らに3Dの設計をしてもらい,ラボ側で出力して送付する等,工夫しながらオンラインの講座を進めた。コロナが多少沈静化した10月には,県内南エリアにある飯田市のエスバードという産学連携施設にもファブ設備が整ったことと合わせ,対面のスクーリングを実施し,ファブラボ長野とzoomでつなぎ,相互に交流しながら,カッティングマシンや3Dプリンタなどを体験したり,各自が制作している作品の相互紹介などを行った。オンライン中心の展開ではあるが,講師陣の協力のお陰で,充実した講座が展開されている。
一方,オンラインにしたことで,月2回の保護者の送迎負担もなく,県内ほぼ全域から受講生が参加することができてきた。これは大きなメリットである。これらを考慮し,来年度以降もオンラインを中心に展開できるようにしたいと考えている。理想的には,Fab Academyのイメージで,オンラインでも充実した実習ができないか,様々工夫してみたいと考えている。
3.ファブラボ長野の成果物
2019年は,ファブラボ長野と株式会社アソビズム,株式会社KSYの産学連携製品として,プログラミング教育用デバイス「keyTouch」が製品化されたが,本年度は,長野県と長野県社会福祉協議会による「第1回 信州共生みらいアイディアコンテスト2019」において,長野県社会福祉協議会会長賞を受賞した学生らの「とろみの付き具合が測定できるスプーン」が,県社会福祉協議会による支援を受けて,意匠を出願し,登録が完了した。介護食の準備におけるとろみの付け具合をなるべく簡単にわかるようにしたいという介護現場からの課題を解決すべく取り組んだものである。実験から試作まで,ラボ内の機材がフル活用された。次の製品化も見据え,次のステップも検討中である。
以上,コロナ禍において,様々な制限が発生したが,それらにうまく対応・活用し,教育学部にあるファブラボとして今後も様々な活動を展開していきたいと考えている。