こんにちは、FabLab Bohol (ファブラボ・ボホール)の髙橋です。
FabLab Boholは、フィリピン第二の都市であるセブ市から船で2時間程度のボホール島にあります。2014年5月にオープンし、もうすぐで1年3ヵ月目になります。青年海外協力隊員*1が設立に携わり、現在も青年海外協力隊員が運営に関わっています。
*1青年海外協力隊員 日本政府のODA(政府開発援助)の一環として、 現地の人々と共に働き、彼らと同じ言葉で話し、相互理解を図りながら、彼らの自助努力を促進するように活動する草の根レベルのボランティア 。
1. 概要
1-1. コンセプト
設立にあたって、フィリピンからはDTI (貿易産業省)、DOST (科学技術省)、BISU (州立ボホール島大学)、日本からはJICA (国際協力機構)が共同出資し、運営も4者共同で行っています。スタッフはBISU (州立ボホール島大学)から、マネージャー1名とテクニカルスタッフ2名の計3名が常駐しています。またDTI (貿易産業省)からは所属デザイナー2名が、JICA (国際協力機構)からは青年海外協力隊員2名が運営のサポートをしています。
設立の主な目的は、地元住民の生活の質を向上させるための、地元中小零細企業の支援や、BISU (州立ボホール島大学)、地元住民自身による利用です。
図1 [白い一画がFabLab Bohol。]
1-2. 設備など
FabLab Boholには、以下の設備があります。
※設備名(製品名 / 企業名)
- レーザーカッター (vs6.60 / UNIVERSAL LASER SYSTEM)
- 大型CNCミリングマシン (PRS Alpha / ShopBot)
- 小型CNCミリングマシン (MDX-40A / ローランド ディー.ジー. )
- プリント&カット (Versa CAM VS-640i / ローランド ディー.ジー. )
- 3Dプリンター (BFB-3000 / 3D Systems, BS01+ / ボンサイラボ)
- 刺繍マシン (PR1000e / ブラザー工業)
- ビデオ会議システム (cisco jabber video / cisco)
図2 [左上から順にレーザーカッター, 大型CNCミリングマシン, 小型CNCミリングマシン,
プリント&カット,3Dプリンター (BFB-3000, BS-01), 刺繍マシン, ビデオ会議システム]
図3 [ FabLab内観。来訪者に対して設備の説明をしている。]
2.地元中小零細企業の支援
島内産業のほとんどが、観光産業と自給自足目的の第一次産業のみに限られ、製造業が盛んな近隣大都市 (セブ市)と比較し、大きな地域間格差があるのが現状です。
ボホール島の産業発達を阻む主な要因は、大型船・大型航空機に対応した物流インフラを持たないため、ほぼ全ての物流が近隣大都市 (セブ市)を中継してしまうことによります。物流コストがかさむことで、島内製品の価格競争力を低下させ、また大規模投資の足を遠のかせることともなっています。
島内製品は質があまり高くないので、近隣大都市 (セブ市)から仕入れている製品も多くあります。そのため、DTI (貿易産業省)はFabLabを活用し、製品企画や開発の知識の開発・改善をしています。その一例が図4のお土産の開発です。
図4 [ボホールのオリジナル水牛ミルク石けんの型(上-3Dプリンターで出力
した原型から取ったシリコン型、下-3Dプリンターで出力した原型)。]
3.BISU (州立ボホール島大学)での活用
BISU (州立ボホール島大学)では、これまで問題解決型の授業が少なく、学生の思考力を高めるという意味では十分なカリキュラムとは言えませんでした。そこで現在、学生の問題解決能力と社会に必要とされる 「イノベーション」を生み出す能力の向上を図るために、FabLabを活用した新しいカリキュラムへと徐々に移行しています。
図5はFabLabを利用して、学生が企画・運営・販売する「住民の収入向上プロジェクト」から生まれたプロダクトです。
図5 [ココナッツヤシの廃棄されている部分を利用したコインケース。地元住民が制作している。]
4.地元住民の利用
FabLab Boholでは、実習形式のワークショップを定期的に開いています。そのワークショップを通じて、小学生から60歳以上の幅広い年齢層の方が、レーザーカッターや3Dプリンター、アルディーノなどについての知識や使い方を学んでいます。
参加者がワークショップで作ったプロダクトを自ら改良して、後日FabLabに持参したこともありました。少しずつですが、ワークショップが地元住民のものづくり意識を啓蒙しているようです。
図6 [アルディーノワークショップの様子。]
5. プロジェクト(「アップサイクル・プラスチック」の開発)
ボホール島はものづくりのための材料も島外から多く仕入れているため、収入の低い地元製造業にとっては材料の購入は簡単ではなく、ものづくりをし辛い環境だと言えます。
そこで、FabLab Boholでは、廃プラスチックを利用した安価な新材料である「アップサイクル・プラスチック」の開発に取り組んでいます。そして、「アップサイクル・プラスチック」の生産と製品加工をボホールの産業として確立することを計画しています。
図7 [「アップサイクル・プラスチック」工程の説明。]
6.まとめ
FabLab Boholでは、以上のような活動を行っています。
ボホール島のような開発途上国のルーラルエリアでは、低い収入やあまり質の高くない教育など、社会問題が山積しています。そのため、FabLabの存在意義も日本とは別のところにあると言えるでしょう。
これからも真剣に、そして楽しく、陽気なフィリピン人とともにこれらの社会問題の解決に取り組み、FabLab Bohol 起点で、ボホール島の住民の生活の質を向上させる活動に邁進していきたいと考えています。