【レポート】第3回 日本ファブラボ会議/Fab Camp 2015

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2015年10月10日〜12日の3日間にわたり、ファブラボ北加賀屋(大阪市住之江区)で開催された「第3回 日本ファブラボ会議」のレポートをお届けします。

日本ファブラボ会議は、年に1度、FabLab Japan Networkに参加するファブラボの運営者・関係者が一堂に会する場としてスタートしたもので、今回が3回目となります。今年は「FabCamp」と題し、強化合宿のようなスタイルでハンズオンのワークショップを中心に行われ、後半からは一般向けにも公開されました。

各地のファブラボによる多彩なハンズオンワークショップ

ファブラボ共通機材を前提としたオープンソースハードウェア(田中浩也)

電子回路をつくるミリングマシン、レーザーカッター、3Dプリンタを組み合わせて製作可能なプロジェクトとして、Exiiiによるオープンソースの筋電義手「Hackberry」や、ファブラボ太宰府の「電子手芸」を紹介。

Hackberry分解して再み組立てる中で、機構の工夫やオープンソースの特性を学びました

DenshishugeiLEDと基板をはんだ付けしてオリジナルアクセサリーをつくる「電子手芸」

Making Core XY Fabric Plotter(大網|FabLab Sendai / FLAT)

「CoreXY」という機構を使った大型プロッターを開発するワークショップ。Bot of the Clothというプロジェクトを参考にしながら、簡易的なプロトによる検討を経て、最終的には実際にコンピュータ制御で図形を描くデモができるところまで実装しました。(レポート

Core XY Plotterプロトタイプがあると、改善のアイデアやフィードバックがどんどん湧いてきます

動作テストの様子(動画

「ファブラボを作るゲーム」を作る(たなごころ|FabLab Kitakagaya)

手作りボードゲームチームたなごころさんによるワークショップ。ディスカッションと参加者へのヒアリングを重ねながら、ゲームのルールを検討し、最終的には「ファブラボに集まるアイテムを手札に各地の課題を解決していくカードゲーム」が生まれました。カードには、実際のラボで起こった出来事や、各地の特色あるマテリアルが書かれています。

Making Game完成したゲームをみんなでテストプレイ

Material Finishing(益田|FabLab Sendai / FLAT)

レーザーカッターや3Dプリンタを使って作られた造形物の仕上げ加工を学ぶワークショップ。レーザーカットした木材の焦げた側面をカッターで削り、くるみや栗などの木の実を使ってオイルフィニッシュする手法を体験しました。また、ファブラボ藤沢・渋谷の井上さん自作のバレル研磨機(回転する箱の中に対象物と粒子状の研磨剤を入れて加工する機械)のテストも併せて行われました。

Material Finishingひと手間ふた手間かけることで、1段上のクオリティに

自転車修繕・改造ワークショップ(井村|FabLab Tsukuba)

「自転車には機械工学に関するあらゆる要素が全て詰め込まれている」という井村さん。パンク修理からブレーキ、チェーンなどのメンテナンス、改造など、自転車を題材にアナログな機械を扱うスキルを学びました。

Bicycle自転車修繕ワークショップで、真剣な眼差しで聞き入る参加者たち

Making Bending Iron(小野寺|FabLab Sendai / FLAT)

薄い木の板を曲げ加工するための「ベンディングアイロン」を、1日で開発するワークショップ。アイデア出し、買い出しを経て、試行錯誤を繰り返しながら「半田ごてにアルミ線を巻いたものをアルミパイプに入れる」という方法で、安くて簡単でコンパクトなベンディングアイロンが完成しました。

Bending Iron熱湯で茹でた板を、熱したベンディングアイロンにあてながら曲げる

Making Vacuum Former(陣内|FabLab Saga)

バキュームフォーミングとは、薄い樹脂板を熱しながら吸引することで型を取る造形手法です。ファブラボ仙台で開発されたSimple Vacuum Formerのレシピをもとに製作。今回のワークショップの中で、内部に柱状の部品を設置するなどの改良が加えられました(改良版レシピ@Fabble)。

Vacuum Former完成したバキュームフォーマーで、ミニカーの型をとってみました

Plastic Recycle Workshop(徳島|FabLab Bohol)

フィリピンのFabLab Boholで生まれた、レジ袋のリサイクル手法を体験するワークショップ。レジ袋を重ねたものをヒートプレスマシンで熱圧着することで、レーザーカット可能なカラフルなプラスチック板ができあがりました。

Plastic Recycle世界に1つだけのカラフルなプラスチック板

Noztekによる3Dプリンタ用フィラメントづくり

3Dプリンタ用フィラメントをつくる射出機「Noztek」を使って、プラスチックに加えて粉末状の素材を混ぜ込んで新しいマテリアルを生み出す実験。スパイシーな香り漂うコショウ入りのフィラメントが生まれ、新しい3Dプリント製品への応用のアイデアも広がりました。

Noztekこの赤い機械でプラスチックをスパゲッティ状に射出する

Ability Evaluation Project(白石|FabLab Kitakagaya)

ファブラボに集まる人々が、お互いどんなことができるのかわからないのはもったいない!という問題意識から生まれた、各自のスキルを評価して可視化するシステムをつくるプロジェクト。ファブリケーションにまつわる様々な能力の構成要素を抽出して評価軸を定め、入力結果をもとにレーダーチャートで可視化するプログラムのテストを行いました。

Ability Evaluationファブリケーション・スキルの評価軸の構成要素をみんなでアイデア出し

Making fabbot workshop(中川|FabLab Kannai)

ファブボット かんなちゃん」は、プラカップとArduinoで作る簡単ロボットキットです。予備知識や電子工作の経験がなくても、1〜2時間程度でつくることができます。Arduinoで動くので、センサを付けたりモーションを変えたり、といったカスタマイズもしやすくなっています。

FabbotMaking Fabbot Workshop:丁寧な説明書に従って組み立てていきます

廃材FAB workshop(中澤、小野寺)

どこからともなくファブラボに集まってくる廃材を活用して「何か」をつくるワークショップ。今回は太宰府と仙台から、金属やプラスチックから植物まで、様々なマテリアルを持ちこんで行われましたた。廃材はコストがゼロなので失敗を気にせず試行錯誤でき、作りたいものがなくても「これで何か作ってみたい」という創作意欲をかきたてます。

Haizai Fab様々な廃材から、楽器やオブジェなどが生まれました

“Strawberry DNA Cocktail” workshop(津田|FabLab Kitakagaya)

パイナップルの酵素を使ってイチゴのDNAを抽出したカクテルづくりと、身の回りから採取した細菌を寒天培地で培養する「細菌ハンティング」を実施。一般家庭でも実践できるような実験を通じて、バイオテクノロジーを身近に感じることができました。

DNA CocktailStrawberry DNA Cocktail、おいしくいただきました

Electric Welding Workshop(竹村|FabLab Hamamatsu / TAKE-SPACE)

1.6ミリの鉄板を「プラズマカッター」で切断し、「半自動溶接機」で棒材を溶接。手頃な価格で初心者にも扱いやすい2つの機材を使った金属加工を体験し、ものづくりの幅を広げるきっかけを得ることができました。(協力:SUZUKID スター電器製造株式会社)

Iron Welding火花を散らしつつ、鉄板をフリーハンドで切断していく


夜のトークセッションやディスカッション

ワークショップ以外にも、各ファブラボからのプレゼン、トークセッションやディスカッションなどのプログラムが夜まで続きます。既存のファブラボの運営者ばかりでなく、これからオープンすべく準備中の方々も多数参加し、お互いに情報交換しながら、あらためてファブラボとは何か、FabLab Japan Networkの現状や、ファブラボのこれからについて議論し、理解を深めました。

Presentation日本各地から15のファブラボによるプレゼンと、準備中のファブラボの自己紹介

FJN Awardみんなで選ぶFabLab Japan Award、1位はファブラボ浜松のアイガモロボットに!

2日目の夜には、今回の会場であるFabLab Kitakagayaの皆さんに、この場所がいかにして生まれ、現在の形になってきたのかお話を伺いました。

当初は関西エリアにおけるファブラボの可能性を探るための有志の集まりからスタートし、今の場所に出会ったのは、2012年の暮れ。「サービスを提供する側/受ける側」という関係ではなく、この場所を使いたい人たちが運営にも関わり、リソースを出し合って自治的に管理するというスタイルで、独特のコミュニティが形成されています。

今回のイベントが実現できたのも、FabLab Kitakagayaのみなさんの多大なサポートのおかげです。本当にありがとうございました。

FabLab Kitakagaya夜のトークセッション:ファブラボ北加賀屋のコミュニティ作りに学ぶ

Foodカレーにはじまり、本格的なBBQ、大阪らしい「粉もん」まで、おもてなしづくし

Discussion最終日、3日間を振り返りつつ「ファブラボのこれから」についてのディスカッション

Wall of Archives壁一面に貼られた3日間のワークショップのアーカイブ


日本ファブラボ会議/FabCampで得たもの

普段はオンラインでの情報共有が主体となっているFabLab Japan Networkではありますが、直接顔を合わせてワークショップやディスカッションを共にする中で得られたものは多く、新たな発見に満ちたイベントとなりました。

個性豊かな各地のファブラボが得意分野を持ち寄ることで、単体で運営しているだけでは知りえないような技術や考え方に出会い、各々がモノづくりのボキャブラリーを拡げていく良い機会となりました。また、教える側も、自分たちの経験を他のラボと共有する中で思わぬ発見や学びがあったようです。

開発系のワークショップでは、短い時間の中で実際にモノが動いたときの達成感もさることながら、居合わせた人々がスキルやアイデアを持ち寄ってものづくりが加速していくような光景をあちこちで目の当たりにして、なんだか胸に迫るものがありました。

また、ファブラボは単に「デジタル工作機器を使って何かを作る」だけの場所ではなく、新しい工作機械や新しい素材など「新しい作り方そのものを生み出していく」場へと進化していくという「Fab2.0」への流れの中にあることを実感できるプログラムになったのではないかと思います。

ひとつひとつのファブラボは小規模でも、多様な個性を持つラボの集合体として刺激を与えあいながら進化していくことができる。そんな、ネットワークとしてのファブラボの価値や、これからの可能性を感じさせられる3日間となりました。

(巾嶋良幸)

FabCamp 2015 All参加者集合写真(北加賀屋の「北」の字のポーズで)

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